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第2回 クロハチインテリアデザイン●黒羽雄二氏

黒羽:ども!

三宅:ども!

黒羽:今日はよろしくお願いします。

三宅:こちらこそよろしくお願いします~。クロハチさんは黒羽表具店という顔以外にも、インテリアデザイン、リフォーム、それからマンションの内覧チェックなどいろいろなさってますけれど、今どの分野の案件が多いですか。

黒羽:襖屋としての仕事が8割ぐらいかな。来る日も来る日も襖ばっかり貼ってますよ。

三宅:8割・・・なるほど。

黒羽:今、某店舗の改修工事の話があるの。これは襖屋としてではなくデザイナーとしての案件です。だけどまだちょっともめてるわけ。店をリフォームしたいってことで俺に声がかかったんだけど、具体的な要望が・・・全然まとまってない状態。

三宅:そもそもどんなお店にしたいのかを言ってもらわないと、具体案を出せないってわけですよね。

黒羽:そう。それで、まぁとにかく何をどうリフォームしたいのかをね、俺に依頼する前に家族でまずは基本的なところを話し合って決めてからにしてくださいっていってさ、そんな状況なの。りかさんコマーシャルデザインってわかる?

三宅:コマーシャルデザイン。

黒羽:俺そういうのをすごくやりたくてね。家族で話し合ってくださいなんていって突き放してみたものの、実はこっちで勝手にもうお店の方向性を絞り込んじゃって、「こんな専門店にしたらどうですか!」みたいな。そんなイメージのロゴマークもすでに作ってしまって、提案したりとかね。空間のコンセプトとか、全体をプロデュースする「コマーシャルデザイン」にすごく興味を持ってます。

三宅:へぇ。デザインに興味あるんですね。

黒羽:ロゴマークとか考えるのがすごく好きですよ。

三宅:今やりたいこととか考えていることってありますか。

黒羽:俺お酒が大好きなんですよ。熱燗がとくにね。りかさん、知らないと思うけど。

三宅:あ、知ってます、よ~く(笑)

黒羽:で。熱燗を飲むときに、気になることない?例えば・・・・

三宅:徳利を持つとき「アチチチっ」ってなるのが嫌だとか?

黒羽:そうそうそういうこと!他には?

三宅:他に?・・・じゃ・・・・「ぬるすぎたとき」のがっかり感とか。

黒羽:そうそう!熱燗ってさ、飲んでるうちに冷めちゃうじゃない。俺ソレすごく嫌なの。ってまぁ、そういうこととかを考えながらね、熱燗をおいしく呑むためのちょっとしたアイデアが浮かんで、デザインをしたんだけれど、それを実際に製作してくれるところを探して交渉しているのよ。

三宅:へぇ~。徳利・・・なんですね。呑むだけは満足せず(笑)

黒羽:そうそうそうそう。徳利をね、例えばね・・・・・

●×△□☆∞~×●×△□☆∞~
(その商品の素材・形・性能・仕掛けについて熱く語る)

(とにかく熱く・・・・語る。でもまだここでは企業秘密!)

黒羽:というわけでね。この徳利のことであちこち出向いたり、調べたり、交渉したり、申請したりってけっこう動いているの。そんなこと4年くらいやってる。

三宅:徳利に4年かぁ。あんまりインテリアには関係ないところでの話、なのねぇ。

黒羽:りかさんはさ、こういうのデザインしたいとかって思わないの?

三宅:あ。私、それはないんですよ。やっぱりね、デザイナーじゃなくてコーディネーターなの、そこは。こういうソファを作りたいなぁっていう願望はなくて、どこそこのソファと、あっちのテーブルと、そっちのラグマットを組み合わしたら素敵だよねぇっていう、「組み合わせ」への興味はある。徳利をつくりたいなぁとか、ロゴマークを考えてみたいなぁっていう願望はなくて、すでに売っている徳利とどんなお皿を組み合わせたら素敵かなって考えるほう。

黒羽:あぁ、なるほどねー。ところで、俺、襖屋でしょ。襖って紙を使うでしょ。和紙。埼玉でいうと小川町ってとこで作ってて、親父の代から小川町でお世話になってるの。上紙はまぁ全国どこででも作ってるけど、襖の下に張る※茶チリってわかる?

三宅:茶チリ。

黒羽:うすーくて、透けちゃうくらいの薄い紙なんだけど、それを作ってるところってあと2軒しか残ってないの。襖の骨の上にその茶チリを張ってから上紙をはると、パンってきれいになるの。ちょっと面倒だってんでそんなのやらないで直接張っちゃうような人とか、襖の工場みたいなところは使わないんだけれど、うちらみたいな襖屋にはどうしても必要なものなの。

そういう紙をさ使うところが減って、つくるところも減ってるんですよ。埼玉の小川町のところは本当に質がよくてね、俺の親父の代から買っていて、今も発注をするとわざわざ神奈川の相模原まで配達に来てくれるの。

三宅:宅配便とかじゃなくて?

黒羽:そう、小川町のおやじさん・・・ってそれこそもういい歳なんだけれど、自ら配達に来てくれる。顔を合わすとねいろんな話を聞くでしょ。今はさぁこういう紙も売れないからなぁ、大量に安く売ってさばいてじゃ生き残れない、値段が高いけど質が良くて芸術品っていう路線じゃないとだめかなぁとか・・・そんな話を聞くわけよ。そうすると、俺も、考えてあげちゃうじゃない。次に小川町のおやじさんが配達にきてくれるまでの間、ず~っと考えちゃうの。

三宅:おやじさんのために、和紙のことを。

黒羽:そう(笑)それでね、和紙をね、そうだ、外国向けのある商品に使えないかなって発想が出てね、小川町のおやじさんにさ、もう70才超えてるのかな、話してみたわけ。こんなのどう?って。そしたら「じっとしてたってしょうがねぇ。やろうじゃねぇか」って乗ってきてくれたんだよね。じゃぁやろう!ってなって、早速文章考えて、外国向けだからね、日本語じゃなくて・・・っていう資料作っって、現地で売り込みをするっていうね。それも、今やってること(笑)

三宅:世界に目を向けた、和紙の営業活動。

黒羽:それで、俺がやりたいのはなんなんだってツッコまれると、つまりその和紙を使った商品のさ、デザインがやりたいわけ。

三宅:コマーシャルデザイン!そっか・・・・・クロハチさんは、インテリアとか仕事・・・以外のことを考えているほうが多そうですね。

黒羽:一銭にもならないことばっかり。

三宅:クロハチさんは襖屋さんでしたよね(笑)

黒羽:そう。今やっている仕事の8割は襖屋の仕事。だけどね、じゃぁ、マジメな話するよ。間違いなく襖の仕事はこの先減ります。まず団地が減ってるでしょ。マンションに和室がない間取りも多いでしょ。あと5年・・・・うん、あと5年かなって思います。襖の仕事は、俺の代で終わりでいいと思ってるんですよ。5年でゼロになるわけではないけれどね、成り立たないとは思う。一般のお客さんからは「襖の貼り替えをしてくれませんか」なんて話、ないですよ。いったいみんな誰に頼んでるんだろ?ってくらい、ない。

三宅:私、リフォームの話をよくいただきますけれど。和室を洋室にしてくれっていう襖をつぶしていく話ばっかりです、たしかに。

黒羽:うん・・・そう。だから、あと5年のうちに

三宅:徳利を完成させて・・・

黒羽:そう(笑)そんで、和紙を世界に広め、そして、コマーシャルデザインの仕事をやるっていうね。

三宅:ね。

黒羽:突然話変えちゃうけど、※R不動産ってあるじゃない。

宅:うん、うん。ちょっと有名。

黒羽:あれはおもしろそうだなって思ってるんですよ。要は、100人のうち99人に受けそうな無難なものを作るんじゃなくて、一人のアンテナにビビビっとひっかかるようなもの。そういうのやりたいし、そういう不動産やさんはまだ少ないよね。って思ってる。

三宅:万人の普通よりも、一人の大満足が得られるようなっていう方向。コアな部分、ニッチなとこを狙う、ね。

黒羽:そういう不動産やさんとつるんで仕事をするっていうのも、生き残りの一つなんじゃないかとは思うんだよね。例えば多摩ニュータウンとかさ、大規模なリフォームの話なんかが出るエリアには襖の仕事も可能性はあると思っている。でもさ、設計だデザインだなんていうじゃない?俺もかつてはそっちよりの人間だったけれど、今はそうじゃないって考えになっているんだ。

三宅:自己満足なデザインをするんじゃねぇ!と?

黒羽:例えばここをどうしてもトメ加工にしろって設計が言うとするじゃない。それが「デザイン」なんだと。だけど、それって自己満足で、単に見栄えだけの話で、実際の使い勝手は悪いし、とかさ。だったら、トメ加工じゃなくてイモの突きつけでも「かっこよく見える納まり」を考えてみろよっていうのが、職人側からの発想。そういう、職人側からの発想で家は作られるべきなんじゃないかなぁって思うようになった。

三宅:デザイナー目線のこだわりではなくて、職人目線でのこだわり?

黒羽:職人の発想はさ、お客さんが使い勝手がいいようにっていうのが第一にあるんですよ。安全で、壊れにくくて、使いやすくて、それでいてお金がかからないんだけれど・・・手間は惜しまないよっていうね。そういうこだわりは、必要だと思いますよ。ところで、敷居と敷居の間のでっぱったとこ、なんていうか知ってる?

三宅:何?

黒羽:※しばた。

三宅:しばた。

黒羽:普通はしばたを作るの。だけど、すごくミニマムにおさめたい現場があってさ、そのシバタの寸法すらなくしたかったの。薄くしたくてさ。俺はデザイナーでその現場にかかわってたんだけど、大工さんに言ってさ、こんなおさめ方出来る?出来ない?って。そしたら大工さんはやるって言ってくれるわけ。じゃぁ、建具屋さんはどう?って。敷居にしばたがないよ。普通に引き違いの建具つくっちゃ・・・倒れちゃうよ。どうする?って。そんなことはやりましたよ。職人側からのこだわりね。

三宅:設計って「自分の作品」という思いで仕事する人も多いと思うけど。

黒羽:だけどさ、住む人がいるんだよ。芸術なら別だよ。好きなように、好きな発想を形にすればいい。だけど、家は「住む人」がいる。家は住むための「道具」だと思っている。道具であるならば、見た目が美しいだけではだめで、そこにきちんと機能や使い勝手が考慮されていないとダメだと思う。

三宅:クロハチさんは昔から、その、使い勝手についてはこだわりを持ってますよね。例えば・・・ダイニングチェアとか。

黒羽:うん。ダイニングチェアは、本当にこだわってほしいと思っているの。テーブルも、まぁ、大切ではあるけどね。でも椅子。椅子を考えるとき案外無視されている重要な要素があるんだけど、りかさん、わかる?

三宅:高さ関係?テーブルと座面のバランス的な。

黒羽:違う。

三宅:座面のカーブ?素材?

黒羽:違う。もっと単純。素人でも気付く、重要な要素。

三宅:・・・・・重さ。

黒羽:そう!重さ。重くて持ち上がらないダイニングチェアなんて、最悪。いかにスムーズに動かせるか。これに尽きる。

三宅:つまり「※スーパーレッジェーラ」だ。

黒羽:そういうこと。

三宅:ところでクロハチさん、趣味ってお持ちでしたっけ?

黒羽:俺ね、駅伝やってるの。

三宅:えへへ、走るんだ!

黒羽:いや~最初は5人だったんだけれど、いっしょに走らない?って仲間集めているうちになんか40人ぐらいのチームになっちゃって座長になっちゃったっていう感じ。今度フルマラソンにも出るし。そのチームのTシャツのデザインもやったし。

三宅:そこでもやっぱりロゴマーク作ったんですね。

黒羽:もちろん!あ、そういえば、こないだ富士山に登ってきましたよ。

三宅:世界遺産~。どこまで?てっぺん?

黒羽:そう。てっぺん。とにかくしんどかった。なにがしんどいって・・・・登山グッズ揃えるのが。めちゃめちゃお金かかった(笑)

三宅:雨合羽だけでも、ウン万円しますもんね。

黒羽:お金かからないところでいえば、このまえ、「ムーンウォーク世界大会」に出場してきました。

三宅:ムーンウォーク世界大会!ってどこでそんなのやってんですか。

黒羽:相模原(笑)・・・俺、いろいろ引きだし持ってるでしょー。

三宅:持ってますねぇ。じゃ、その話はまた今度。

黒羽:新宿のションベン横丁で呑みながらね。

三宅:ですね。

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※茶ちり・・・・ 襖の「下張り」に使うもの

※しばた(ひばた)・・
 建具の枠材には、建具を走らせるための溝がある。
 溝のことは溝といい、 溝の両側のことを樋端(ひばた)という。

※スーパーレッジェーラ・・・
 イタリアの巨匠、ジオ・ポンティがデザインした椅子(1951年)の名前。 
 別名「完璧な椅子」といい、1700gの超軽量。
 カッシーナで取扱い。1脚、約17万円。

※東京R不動産・・・
    変わった嗜好や個性的なこだわりに応えていく新しいスタイルの不動産屋さん。
   http://www.realtokyoestate.co.jp/

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黒羽雄二(クロハ ユウジ)氏 
クロハチインテリアデザイン/黒羽表具店 代表

家は「道具」だよ。
住む人がそこを使うんだから、道具。
デザインだ見栄えだっていう設計寄りではなくて、もっと職人寄りの考え方で、家は作るべきであると思う。

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<編集後記>
「俺の親父の言葉でさ。出来ないって話はするな、出来るか出来ないかじゃなかくて、どうやったら出来るかを考えろ、っていうのがあって、俺は職人として親父のその言葉をいつも心に置いている」と話しをしてくれたクロハチさん。彼の中には「なんらかの強いこだわり」があるということを私はひそかにいつも感じていたのだけれど、もしかしたらそういうことが影響をしているのかもしれないと納得した。襖屋さんという立ち位置に誇りを持ちつつ、ある種の危機感を持っている。いろんな発想を試みながら世界を広げようとしているクロハチさんを感じた。

2013.9 新宿パークタワー2F「コンランショップカフェ」にて

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